清掃の常識を変える。完全自律型トイレ清掃ロボット「CleanK」が描く、誰も嫌がらない未来。

#インタビュー#ロボティクス#実証実験

※当記事は、DMM.comが運営する次世代モビリティ・ロボティクス支援クラスター「MoRo」のサイト内に掲載された、スタートアップ「株式会社inprog」による自律型トイレ清掃ロボット「CleanK」を紹介した事例記事を、羽田みらい開発株式会社がMoRoクラスターに参加しているため、当サイト「Journal by HANEDA INNOVATION CITY」にて再掲しています。

元記事のURL→https://akiba.dmm.com/moro/news/2606inprog


日々の暮らしの中で、誰もが毎日必ずお世話になる「公共トイレ」。その清潔で快適な環境を維持するためには、高い清掃品質と継続的な運営体制が求められています。一方で、清掃業界では人手不足への対応や業務効率化が課題となっており、新たな技術の活用が期待されています。

この社会の課題に対して、世界最高峰のロボットエンジニア集団を率いて真っ向から挑む気鋭のスタートアップがあります。東京都大田区を拠点とする株式会社inprog(インプログ)です。

彼らが開発するのは、AIとロボティクスを融合させ、便器のふち裏から床までを完全自動で磨き上げる自律型トイレ清掃ロボット『CleanK(クリーンケー)』。
次世代モビリティやロボティクス領域のスタートアップの社会実装を推進するプロジェクト「.make Mobility&Robotics(以下MoRo)」などの支援を受け、羽田空港の未来を創る研究開発拠点「terminal.0 HANEDA(ターミナル・ゼロ・ハネダ)」にて実証実験を展開しています。単なるロボット開発の枠を超え、東京都、ひいては世界中の都市インフラの持続可能性をアップデートしようとする、泥臭くもワクワクする挑戦の裏側に迫りました。

株式会社inprog
​​https://inprog-inc.com/
代表取締役:宗清 直人
設立年月 :2020年4月
事業内容 :自律型トイレ清掃ロボットCleanK の企画・開発・運営

自ら1,000回以上便器を磨いた経営者と、運命の出会いが生んだ最強チーム

「CleanK」誕生の背景には、代表取締役の宗清 直人(むねきよ なおと)氏の、あまりにもリアルで壮絶な現場経験がありました。

かつてビッグデータの解析事業を手がけていた宗清氏ですが、一時的に会社の資金繰りが非常に苦しい時期に直面しました。会社のキャッシュフローを回し、食べていくために、宗清氏は軽貨物自動車を1台買い、自ら現場に入って深夜のトイレやマンションの清掃を行う清掃事業を始めたのです。

自ら1,000以上のトイレ便器を泥臭く清掃する中で、宗清氏は強烈な問題意識を抱くようになります。

「既存の清掃モデルは完全に限界を迎えていました。何より頭を悩ませたのは、清掃員をシフト通りに確保すること。人が集まらない日は数名の従業員と20時間以上連続で働き、作業後に疲労困憊のまま国道沿いの車中で眠ることもありました。

トイレ清掃は誰もがやりたがらない過酷な仕事であり、清掃員の平均年齢も50歳を超え、離職率は非常に高い。人で清掃現場を維持し、管理物件を増やしていく既存のビジネスモデルは、遠くない未来に確実に崩壊すると痛感しました」(宗清氏)

最初はソフトウェアによる効率化を模索したものの、汚れを物理的に落とすという清掃のコア部分は、ハードウェア(ロボット)でしか根本解決できないと決意。自身が清掃で稼いだ資金をすべて注ぎ込み、ロボット開発へと舵を切りました。

この熱い挑戦に惹かれるようにして、チームには優秀なエンジニアたちが集結。世界大会で上位実績を持つ機体設計エンジニア、物理オリンピックメダリストかつ東大のロボコンサークル出身の逸材、介護ロボットを研究する博士課程の学生、さらには人間が空を飛ぶジェットスーツを開発していたスタートアップのエンジニアなど、現在は7名の専門人材が揃う開発チームが構築されています。


「アーム単体」から「統合試験機」へ。terminal.0 HANEDAで遂げた具体的な開発進捗

実際の実証実験の現場は多くの課題に直面しました。広いトイレであっても、個室の入口が狭すぎてロボットが入れないという、現場に出て初めて直面するリアルな物理的制約がその一例です。

これに対し、開発チームは即座に機体設計の見直しに着手。外部パートナー企業の協力により、従来のフレームから剛性を担保できる金属製フレームへと筐体をアップデート。機体のガタつきを排除することで、ミリ単位のアーム制御の精度を大幅に向上させたうえで、日本特有のトイレの狭さにも対応できるようにサイズを調整しました。

この「terminal.0 HANEDA」での継続的な実証を経て、それまでアーム単体での検証に留まっていたロボットは、アーム・台車・昇降機構をすべて統合した「統合試験機」へと進化を遂げました。現在までに、以下の5つの具体的な開発進捗を確認しています。

【金属製アームと各機構の統合完了】強固な金属製アームを備え、モーター駆動の代車や昇降機構と統合された試験機が組み上がりました。
【代車の移動精度向上とエレベーター乗り降りの実証】移動台車の精度が向上し、実際の検証フィールドにてロボットがエレベーターを乗り降りできることを確認しました。
【トイレ個室感の完全自律移動に成功】自己位置推定と地図作成を行う行動な「SLAM(スラム)機能」を実装。指示を出すだけで最適なルートを選択し、個室から個室へと完全に自動で移動する制御に成功しました。
【昇降機構の制御精度向上】高さ調整を選択行う機構の精度が向上し、便器の高さや個室の形状に合わせてアームの高さを自在に調整可能になりました。
【複数タスクへの対応】ツールチェンジ機構を用いることで、床拭き、大便器磨き、小便器磨きなど、1台で複数種類の清掃タスクを連続して行うことに成功しました。

現在は、実証実験の最終段階として「どのくらいの力でアームを押し付け、何秒間こすれば汚れが落ちるか」という最適な基準値(パラメーター)の定量化を模索しています。


こだわりは、プロの磨きを再現する「やり直し」のない圧倒的な清掃品質。既存のロボットとの決定的な違いとは

世の中にはすでに床掃除用のロボットなどは存在しますが、既存のロボットと「CleanK」には決定的な違いがあります。

既存の清掃ロボットの多くは、汚れが十分に落ちていない状態であっても規定のルートを通り過ぎてしまいます。そのため、結局はあとから人間がやり直さなければならず、現場の省人化や負担軽減に繋がりにくいという課題を残していました。

「CleanK」が目指すのは、宗清氏が現場で体得した職人技(磨き方のノウハウ)を徹底的にデジタル化し、カメラの映像から次の行動を予測・判断する最先端のフィジカルAIモデルに学習させるアプローチです。

これにより、ただ機械的にルートを移動するのではなく、AIが汚れを認識して磨き落とすまでその場を離れないという、人間と同等の高い清掃品質の再現を目指しています。この「やり直しがない」圧倒的な品質へのこだわりこそが、既存製品に対する強力な参入障壁となります。


“世界一綺麗”な空港の水準を目指して。「terminal.0 HANEDA」での実証と、MoRoによる共創

inprog社は現在、羽田空港の課題解決・実証実験の最前線である「terminal.0 HANEDA」にて「CleanK」の実証実験を行っています。

スタートアップ単独では、実証フィールドを確保して実験を行うことは困難ですが、今回のプロジェクトは、東京都のスタートアップ支援事業が契機となり、inprog社と日本空港ビルデング株式会社との協働体制として実現しました。

あえて清掃基準が極めて高い羽田空港の再現環境を実証の地に選んだ理由には、普及可能性とグローバル展開の観点で明確な戦略がありました。

宗像氏「羽田クラスの厳しい最高水準に合わせて清掃ができていれば、世界中のどこの施設に行っても私たちのロボットは通用します。ここで技術を磨くこと自体に、将来的なグローバル展開を見据えた高い普及可能性が眠っています」

「羽田クラスの厳しい最高水準に合わせて清掃ができていれば、世界中のどこの施設に行っても私たちのロボットは通用します。ここで技術を磨くこと自体に、将来的なグローバル展開を見据えた高い普及可能性が眠っています」(宗清氏)

この本格導入を見据えた実証実験を側面から支えているのが、東京都のスタートアップ支援事業「TIB CATAPULT」の一環として発足したクラスター「MoRo(モーロ)」です。

合同会社DMM.comが創生したクラスター「MoRo」は、次世代モビリティ・ロボティクス分野における社会実装を加速させることを目的としています。

今回のプロジェクトでは、協働パートナーである日本空港ビルデングとの連携に加え、MoRoに参画する大手家電メーカーから実用化に向けた技術的アドバイスを受けたり、大手部品メーカーによる制御検証に必要な評価ボードの無償提供を受けるなど、クラスター内の有形無形のネットワークによる支援が、inprog社の技術検証スピードを加速させています。

10年後の未来。都市インフラの維持からグローバル、そして宇宙空間へ

今回のプロジェクトは、単なる便利な清掃ロボットの開発に留まりません。深刻な労働力不足に直面する東京都、そして日本全体において、不可欠な社会インフラである「清潔な公共空間」を永続的かつ持続可能に維持するための、極めて重要度の高い取り組みです。

10年後、inprog社とクラスターMoRoが目指すのは、商業施設やオフィスビルに行ったとき、このロボットが当たり前のように配備され、人々の生活に完全に溶け込んでいる世界です。

トイレという、狭あいで難度の高い清掃プロセスをクリアできれば、そこから他の清掃エリアやメンテナンス業務へも展開が可能です。さらに、日本以上に清掃労働の代替に対する需要が高く、市場規模が日本の約8倍にのぼるアメリカをはじめとした、グローバル市場での圧倒的なシェア獲得も見据えています。

「平面だけでなく、立体面や複雑な曲面の清掃こそ、AIの進化とハードウェアを融合させることで実現できる技術領域だと考えています。その中で私たちは、最も技術が試され、汚れが激しく時間もかかる “トイレ” という難度の高い領域から挑戦することを選びました。ここを突破できれば、施設内の他のエリアへの拡大は地続きです。

それが達成できれば、将来は人間が立ち入ることができない遠隔地や閉鎖された環境での清掃・メンテナンスへと技術を応用できます。さらには、将来的に人類の居住が想定されている月や火星といった宇宙空間においても、不可欠な清掃やメンテナンスのインフラを担える、そんな企業へと成長させていきたいと考えています」(宗清氏)

東京都「TIB CATAPULT」事業、次世代モビリティ・ロボティクスを多角的に支援する「MoRo」という強力なバックボーンを得て、inprog社の「CleanK」は今、羽田から世界へ、そして未来の社会変革に向けて確実な一歩を踏み出しています。

INFORMATION

【TIB CATAPULT】
都内の様々なインダストリーやテクノロジーの領域において進められるスタートアップ支援・協働等の取組を多角的に支援し、都内各所でスタートアップを起点としたイノベーション創出の動きを加速させることを目指しています。
公式サイト:https://tibcatapult.metro.tokyo.lg.jp/

 

【.make Mobility &Robotics(MoRo)】
DMMが創生したクラスター「MoRo」は、次世代モビリティ・ロボティクスの社会実装を目指す企業等が集結し、蓄積してきた知見をつなぎ・共創することで、くらしや産業などで「実際に使える」ソリューションを生み出していきます。
公式サイト:https://akiba.dmm.com/moro

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