ロボットレストランを通じ川崎重工業が模索する「産業用ロボットの次なる可能性」| AI_SCAPE

#インタビュー#ファシリティ#ロボティクス

川崎重工業株式会社(以下、カワサキ)は、国内における産業ロボットメーカーとして業界を牽引してきました。これまで工場内といった産業分野で第一線を駆けてきましたが、人とロボットが出会う新たな拠点として「Future Lab HANEDA」をHANEDA INNOVATION CITY(以下、HICity)に設けました。

本記事ではFuture Lab HANEDA内にあるロボットレストラン「AI_SCAPE」を中心に、実際にロボットレストランを通じて得たこと、そしてロボットとともに目指していく未来についてお話を伺いました。

自律走行型サービスロボット「Nyokkey(ニョッキー)」さんを挟んで、川崎重工業(株)の山下まいかさん(右)と、カワサキロボットサービス(株)のモー・チュンヒンさん(左)。

産業用ロボットのニーズを模索する場として

HICityの2階、イノベーションコリドー沿いに異彩を放つスペースがあるのをご存知でしょうか。クリーンな雰囲気の店内には、複数台のロボットがテキパキと働いており、まるで子どものころにアニメやマンガで見た近未来レストランのよう。そう、ここがカワサキが提供するロボットレストラン「AI_SCAPE」です。

「カワサキは産業用ロボットを作り続けて50年以上のロボットメーカーです。これまで産業用ロボットは工場の中だけで発展してきました。ですが、きっとロボットが活躍できる場所は工場の中だけではないはず。その可能性を探ろうとこの場をオープンしました」

そう教えてくれたのは、ロボットディビジョン グローバル事業推進部の山下まいかさん。カワサキのロボット事業を広く周知しながら、ロボットと人が暮らす“次世代の暮らし”を模索しています。

「当社は工場の中で活躍する産業用ロボット分野ではプロフェッショナルですが、世の中にどのようなニーズがあるかというところまでは知りません。『工場を飛び出して、人と出会う』というのがAI_SCAPEのコンセプトなんです」

キッチンスペースでは3台の産業用ロボットが、パウチを温めたり配膳をしたりと、的確な動作でオーダーされた料理を調理している。

調理から配膳までオールロボット! 完全自動レストラン

百聞は一見にしかずということで、AI_SCAPEで食事をしてみましょう。テーブルにあるオーダー用QRコードから注文したいメニューを選択します。

メニューはジャワ風ビーフカレーセット、ボロニア風ミートソースセット、ミネストローネセットの3種類。川崎重工業の基盤がある神戸の「MCC食品株式会社」とのコラボレーションで生まれた、こだわりのオリジナルメニューだ。

注文が入ると、厨房内に設置された3台のアームロボット「RS007L」、そして配膳ロボット「PUDU」が順次動き出します。RS007Lはカワサキのロボットで、PUDUは他社製のロボットですが、互いにスムーズに連携しているのもポイントです。

アームロボットが器用にパウチを温めて中身をカップに移し、配膳ロボットがそれを次の工程に運ぶ様子に、私たち人間は思わず引き込まれてしまいます。

吸着パッド付のアームでしっかりとトレーをピックアップするロボット。
キッチン内にてトレーの受け渡しをするのは、PUDUという配膳ロボット。まさに流れ作業というべき現場を円滑にまとめ上げる。
温めたパウチからルーをお皿に注ぐ。無駄なく食べられるよう何度も腕を振り下ろす動作に、思わず愛嬌を感じてしまう。
最後のアームロボットがカトラリーボックスを配膳すれば、キッチン内での作業は完了だ。

完成した料理を運ぶのは、AI_SCAPEの看板ロボットとも言えるNyokkey(ニョッキー)さん。自由自在に動くアームを器用に動かして、目の前まで料理を配膳してくれました。

笑顔で料理を持ってきてくれるNyokkeyさん。1つひとつの動作を確かめるように、丁寧に配膳をしてくれた。
テーブルに届いた「ロボットが作るボロニア風ミートソースセット」。味わい深いミートソースに、2色のパスタがぴったり! テーブルにはプロジェクションマッピングがされ、様々な情報が照らし出される。
配膳ロボットから料理を受け取るNyokkeyさん。終始、愛くるしい笑顔を浮かべていたのが印象的。

ロボットによる調理風景を定点カメラで撮影。同時並行で順次動き始めるアームロボットに注目だ。

ロボットフレンドリーな環境を目指してブラッシュアップを

産業用ロボットにおける新しいステージとして、「AI_SCAPE」では得るものが多いと山下さんは話します。

「例えば、この施設の面白みはホールにあると思うんです。お客様が利用するテーブル&チェアは特注で作っていて、脚を内側に入れていたり、荷物の収納スペースをたっぷり設けたりすることで、ロボットが転ばないようにしているんです。ロボットが効率良く働けるような環境を作る、つまりロボットフレンドリーな施設運営を心がけています」

特注のテーブルチェアセット。椅子の下や横に収納スペースを設け、地面に荷物が置かれることのないように工夫したそうだ。
テーブルに投影されるプロジェクションマッピング。必要な情報が表示されるようにするなど、様々な活用方法がある。

「子どもたちの動きを予測できないのも気付きでしたね。ロボットとぶつかってしまわないよう、Nyokkeyに『僕がここから近づきます』という音声を増やしたのも、レストランを通じて工夫した点です。音声に加えて、にっこり顔を付けて恐怖心を与えないようにしました」

ただ、このAI_SCAPEはレストランを経営することが目的で誕生した施設ではない、と山下さん。

「産業用ロボットの新たなニーズを探るのがこの場所の目的なので、レストランでなくても良かったんです。当初、コンビニエンスストアという案も出たのですが、コンビニにしてしまうとロボットがバックヤードに常駐してしまい、一般の方がコミュニケーションを取る機会もなくなってしまうため、それは趣旨と異なると思いレストランに決定しました」

これまでの枠を飛び出し、ロボットと生きる新たな社会へ

この空間は、AI_SCAPEの他にワークショップや実証実験ができるスペースと、オフィススペースの3つを同居させた『Future Lab HANEDA』としてオープンしています。

ここでは子どもたちに向けたプログラミングのワークショップを開催したり、先端技術にまつわる企業の交流スペースとして活用したり、今後もカワサキのロボット事業において重要な拠点としての役割を担っています。

子ども向けワークショップでは、アームロボットの操作やプログラミングなど、専門的な内容を扱っている。
滅多に見ることのできないアームロボットに興味津々の子どもたち。ワークショップの詳しいレポートはこちらより。

ただ、AI_SCAPEおよびFuture Lab HANEDAをオープンさせるにあたって、社内では葛藤があったといいます。

「正直なところNyokkeyの配膳も早いとはいえないし、おぼつかない感じもするので、このクオリティで出していいのかなという悩みはありました。けれど、実際に動いているロボットを見て、一般の方々が「すごい!」とおっしゃってくれるのは、エンジニアにとっても励みになりますし、自信にもつながると思うんです。ここで完成形を見せる必要はなくて、これから一緒に成長してくれるパートナーを探しているんだから、進化していく過程を見てもらえばいいんじゃないかと考えています」

Future Lab HANEDAではAI_SCAPEのオリジナルグッズも購入できる。
スタッフの皆さんが着用するブルゾンもグッズとして販売されている。

最後に山下さんは、カワサキが目指す未来を改めて示唆しました。

「カワサキには『ロボットと生きる 喜び豊かな未来をささえる』という理念があります。現在、世界には先進国を中心に労働力不足などの社会的課題があり、これをロボットと共に解決していくのが私たちの命題です。これまで工場の中で発展してきたロボットが、社会の中で活躍する可能性を探る場、それがFuture Lab HANEDAだと考えています」

長年にわたって産業用ロボットを牽引してきたカワサキが枠を飛び越え、ここHICityから新たな一歩を踏み出しています。ロボットと生きる社会とはどんなものだろう? そう思った方はぜひ遊びに来てみませんか? 個性豊かなロボットの姿に、未来の手触りを感じられるかもしれません。

INFORMATION

【AI_SCAPE】

HANEDA INNOVATION CITY ZONE D棟2-3階
TEL:03-5579-7721
Lunch:11:00-14:00(L.O.13:30)
Dinner:16:00-19:00(L.O.18:30)
定休日:水曜、年末年始

AI_SCAPE公式サイト

Future Lab HANEDA公式サイト

text : Miyu Oshiro photo : Nozomu Ishikawa

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