自律走行する配膳ロボットが活躍中。Solid Surfaceが目指す人とロボットの未来

#インタビュー#ロボティクス#実証実験

国内外で活躍する企業のオフィス街として、ライブ会場を併設した商業集積地として、さらには大学や企業の研究拠点として。HANEDA INNOVATION CITY(以下、HICity)は、幅広い機能を併せ持った複合的な“まち”です。

そんなHICityの敷地内を自走する、1台のロボットの姿がありました。このロボットは、HICity内に開発拠点を持ち、同施設内にて実証実験を展開するベンチャー企業「Solid Surface株式会社」が開発した自律走行型配膳ロボットです。Solid Surfaceはシステム開発領域を専門に、AIシステム開発からコンサルティングまで、先端技術にまつわる事業を展開するベンチャー企業です。

近年、商業施設など私たちの身の回りで働くロボットの姿を目にする機会が増えてきました。この配膳ロボットは将来的に「売り子」として活躍することを目指した新しい試みとなっています。
本記事ではインタビューを交えながら、現行の配膳ロボットの仕組みや、実証実験フィールドとしてのHICityの姿、そして先端技術を開発するSolid Surfaceが思い描く未来についてご紹介します。

左:Solid Surface 株式会社 代表取締役・酒造 孝(みき たかし)さん/右:同社 管理部 研究開発部・髙野 和奏(たかの わかな)さん。

HICity内を自律走行する配膳ロボット

現在、HICityで実際に稼働している配膳ロボットは、2つの収納スペースを携えた自律走行型のロボットです。エレベーター連携により階層を問わず移動することができ、店舗の商品を指定の場所まで届ることが可能です。

「現在、ファミリーレストランなどで既に活躍している配膳ロボットは行ったり来たり、往復するだけのものが多いのですが、このロボットは複数箇所を周遊できる仕組みになっています。複数店舗で買いまわりをした上で、2つの商品を乗せてお客さんのもとに届けられるので、配膳効率が高いんです」

と話すのは、Solid Surfaceの代表取締役・酒造孝さん。

これがHICity内を走行するSolid Surfaceの配膳ロボット。可動式の縦長ロッカーのような見た目で、天井部には決済システムを搭載している。

利用方法はとても簡単。利用者がスマートフォンから商品をオーダーすると、配膳ロボットが自動で目的の店舗まで走行を開始します。HICityでの移動範囲や経路をシステムに組み込み、施設内のエレベーターとも連携しているため、スムーズにフロア間の移動が可能です。

利用者はSolid Surfaceが構築した専用サイト「Karry」から商品をオーダーする。商品と受け取り場所、受け取り時間を選択し、注文を決定すれば自動でロボットに指示が送られる仕組み。
自動で走行を開始する配膳ロボット。人間がゆっくり歩行する程度の速度で移動をする。
HICity内の店舗、ダイニングバー・バル「HANEDA SKY BREWING」に到着した配膳ロボット。決められた場所に、ぴたりと停止。
注文を受けた商品を、お店のスタッフがロボットの荷室に格納する。この日はドリンクのオーダーだったため、転倒防止用の専用トレーを使用する。
エレベーターに乗り込むロボット。ボタンに触れることなく、直接エレベーターの制御システムにアクセスし、フロア間を移動する。
ロボットが乗降するエレベーター内ディスプレイには「専用運転 一般の方は降りてください」の文字が表示される。

お客さんは目的地に到着したロボットから商品を受け取ります。ここで注目したいのが決済システム。この配膳ロボットはキャッシュレス決済の端末を搭載し、商品を受け取る直前にセルフレジと同じ要領で支払います。

ロボットに搭載された端末を操作し決済する。やり方は店舗のセルフレジと同じ。
決済完了と同時に扉が開き、オフィスに居たまま飲み物や食べ物を受け取ることができる。※現在、利用に関してはHICity内の入居企業に限られる。

この後払いシステムにも理由があると酒造さんは話します。

「このデリバリーサービスはロボット本体だけでなく、ロボット制御ソフトウェアからWebシステムまで一貫して弊社で作っています。当初、Webシステム上に決済も載せて注文時に支払する仕組みにしていたのですが、それだと仮に配膳途中でロボットのインシデントが発生した場合に困ってしまいます。そのため商品が届いたタイミングで決済する仕組みに変更しましたした」

さらに、今後の展望を見据えて、後決済に切り替えたのだといいます。

「加えて、物を運ぶロボット事業として今後、決済が絡まないケースも考えられるんです。そのため幅広いフィールドに売り出していくことを考えたときに、運搬・決済についてはロボットに特化してもらうことにしました」

現在はスタッフが帯同し、走行上の安全確保を実施している。
ロボットのソフトウェアにはHICity内のマップが組み込まれている。
専用サイト「Karry」には決済機能を持たせず、オーダーに特化させることで活躍の幅を広げていきたい考えだ。
現在HICity内の3店舗のデリバリーを実施。今後、店舗や取り扱い商品を増やしていきたいと酒造さんは語る。

HICityが秘めた実証実験フィールドとしての可能性

HICityのような実証実験フィールドは、全国的にも非常に希有だと酒造さんは言います。

「例えば福島県南相馬市にある、ロボット関連の開発や実証実験を行っている施設“福島ロボットテストフィールド”は、擬似的な街や道路を模倣した施設となっています。本当の街にそっくりですが、暮らしている人たちはいないんですよね。一方、HICityは実際に一般の方々が往来する施設なので、テストベッドとしてはとても珍しいんです」

HICityの1階部分は、一部が公道扱いとなっているためロボットを走らせるためには、警察に届け出をし、“遠隔操作型小型車”の標識を取り付けることが必要。Solid Surfaceでは、HICityで実証実験を行う企業向けに、必要な各認証を取るためのサポートも行っている。

Solid SurfaceはHICityの開業時に入居した企業のひとつでした。当初はロボットや先端技術を研究開発し、新サービスを提供することを目的に参加していたものの、他の機関や組織とのやりとりを通じ、現在ではHICityにおける実証実験を総括し、牽引をする中心的な役割を担うまでになったといいます。

「新技術やサービスを開発している企業にとって、マーケットがある程度見えている実験に関しては自分たちでできるのですが、そもそもマーケットが存在するのか分からない状態では、テストマーケティングできるような場が日本ではまだほぼありません。HICityは今後、ロボットの性能評価だけでなく、“ビジネス評価ができる実証実験の場”として成長していければと考えています」

さらにSolid Surfaceは、実証実験のテストフィールドとしてのHICityの成長を支えてきた企業として、現在の課題をこのように指摘します。

「メーカーやソリューションを持っている人がテストをするだけでなく、これからはそのサービスを買いに来る人たちの往来を増やしていきたいと考えています。今のところ実証実験としての環境には恵まれているものの、そこで生まれた技術が需要に届いていないように感じるんです。そのためHICityが『買いたい企業』と『売りたい企業』がマッチングするような場になってもらえればと思います」

HICityの一般イベントでは社長自ら開発製品を披露。これはセグウェイの仕組みに運搬用のカートを組み合わせた空港導入を見据えたモビリティ。
一般客との交流があるのがHICityでの実証実験の特徴。より需要がある場への情報発信や交流促進が欠かせないと酒造さんは話す。

実証実験フィールドとしてのHICityを牽引するSolid Surfaceは、今後どのような開発をしていくのでしょうか。酒造さん曰く、走行時の足まわりなど、ハード面での課題は解決できたといいます。

「次はロボットが人間の言葉で話しかけてくれるようなシステムを作っています。例えば、ロボットが自ら『今日のお昼は何を食べますか?』と話しかけてくれるような感じですね。僕らはロボットに『そしたら○○のお弁当買ってきて』と気軽にオーダーをする。友達感覚で人間からお願いされたら、きっとロボットはもっと頑張っていけるんだろうなと思います。人間とロボット間のコミュニケーションをもっとインタラクティブなものにしていきたいですね。

Solid Surfaceが目指すのは「面倒なことはAIやロボティクスに任せ、人はより人らしく幸せに暮らす未来」だと、酒造さんは話します。その第一歩となる実験が、いまHICityで実施されています。

かつて映画やマンガなどのフィクションで夢描いていた、ロボットと人間が共生する未来が、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。

新旧集った配膳ロボット。より便利に使いやすいよう、ここHICityで進化を遂げている。

text : Miyu Oshiro photo : Nozomu Ishikawa

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