宇宙に届け! ねじ作り&月面探査車体験|HICity春スクール2024(桂川精螺製作所編)

#イベント#ワークショップ

2024年2月から3月にかけて、HANEDA INNOVATION CITY(以下、HICity)で、大田区の小中学生と保護者を対象にした「HICity春スクール2024」が開催されました。羽田空港や周辺施設等を知り、理解を深めることを目的とした羽田みらい開発株式会社によるイベントです。

参加者は「羽田空港にまつわるコンテンツ」、「地域や“まち”の特性を活かした企業と連携したコンテンツ」の両方に参加します。今回レポートするのは後者となる内容の「ねじ作り&月面探査車体験」のワークショップ。株式会社きらぼし銀行と、ものづくりのまち・東京都大田区を代表して株式会社桂川精螺製作所(かつらがわせいらせいさくしょ)、月面探査車を開発する株式会社ダイモンの3社がタッグを組み、ねじ作り体験&月面探査車操縦体験を実施しました。

ねじ作り一筋86年、桂川精螺製作所

多摩川のほとりに位置する桂川精螺製作所は、1938年の創業以来、自動車や家具・家電、建築関係の“ねじ”を中心とした金属部品を製造・販売しているメーカーです。主に自動車やバイクなどの部品を多く手がけており、数千種類もの部品を常時製造しているのだとか。自動車やバイクなどの製品は、わずかな不良が命を危険にさらす可能性もあるため、常に高い精度が求められます。精密なねじで安心・安全を縁の下で支える、そんなものづくりを実践し続けています。
ねじ製造のマシンに出迎えられた参加者たち。これらはかつて工場にて電動で活躍していたそうですが、今はこのようにねじ作りを体験できるよう手動に作り替えられています。

まずは工場見学にねじ作り体験、月面探査車操縦体験や探査車の落下実験など盛りだくさんの流れを確認します。

当日は普段入ることのできない製造現場の見学もできる今回のワークショップ。異物の混入を避けるために、ヘアピンなどの小さいものでも落とさないよう厳重な注意喚起も。参加者にも緊張が走る。
ねじを漢字で書くと「螺子」。精螺とは「精密な螺子」という意味もあるのだと解説。高い精度が求められるねじを80年以上にわたって製造を続けている。
壁には桂川精螺製作所が手がけるさまざまな金属部品のポスターも展示されている。自動車やバイクの具体的な車種や使用箇所など詳しく知ることができた。

専用マシンを操作して、ねじを作ってみよう

線状をした金属の材料がねじになるまでの工程を体験できる「ねじを作ってみよう」のコーナーは、子どもはもちろん大人たちも「ねじ作りってこうなっているんだ!」という驚きの連続でした。

桂川精螺製作所では、金属材料を金型に押し込んで成型する塑性(そせい)加工という方法でねじを製造しています。今回は4つのマシンを使用し、手動で一つひとつ作っていきました。

今回のねじ作りで使う線材。ねじのサイズごとに線材の太さが異なるため、工場内の製造ラインにはとてつもなく太いものも。
線状の材料を切断し、ねじの頭等を成型する工作機械。製作所スタッフの説明を聞きながらハンドルを回す。回していくと次第に重さが感じられた。
ねじ頭部等を型抜きする工作機械。ハンドルを回すとアームが降りてねじをキャッチする。緻密な挙動に子どもたちも目を凝らして見学していた。
工程を経たねじは手前の段ボールに飛び出してくる。ハンドルを回しながら、今か今かと待ち構える。
ねじ部の溝を作る前にワッシャーを通す。「そっか、これってワッシャーっていうんだ!」という発見とともに、小さなハンドルを回していく。
ラストはねじ部の溝を作る工程へ。ここで溝を作ることにより、ワッシャーが外れなくなる。どんどん見慣れたねじの形へと変化していく様子に子どもたちも夢中!
金型部分の拡大写真。金型を押しつけて溝を成型する。塑性加工は削り出す工法と比較し、廃材が発生せず環境にも優しいのだそう。
完成したねじがこちら。小さなねじだが、自分の手で作り上げた喜びはひとしお。小さな手で大切そうに握りしめる子どもたちの姿が可愛らしい。

実にシンプル、だけど奥深い。そんなねじ作りを体験できた子どもたちは、自分の作ったねじを大切そうに握りしめていました。

「ここはどうなってるの?」「ここはね……」と、子どもたちと製作所スタッフの会話に満ち、弾けんばかりの好奇心を感じられる一幕となりました。

ねじが宇宙に!? プロジェクトYAOKIの1/6重力走行実験を見学

そしてこの桂川精螺製作所のねじが、いま宇宙に挑戦していることをご存知でしょうか? 月面探査車YAOKI(ヤオキ)を開発するダイモンとタッグを組み、月面探査プロジェクトが始動しています。

YAOKIとは月面開発の最前線で活躍するロボット。片手で持てるほどの超小型で、498gの超軽量。さらに100Gの高強度に耐え、どんな路面でも七転び八起きのように起き上がる設計となっています。この「YAOKI」に使用されているのが桂川精螺製作所製のねじなのです。長年にわたって自動車やバイクを支えた技術が、いま月を目指しています。

この日はプロジェクトYAOKIの説明とともに、YAOKIの操縦体験、そして月面を想定した実験も実施。頑丈なケースの中にYAOKIを入れて落下させる中で、地球の1/6となる月の重力を再現。落下しているケースの中でYAOKIが想定通りに走行するか目を見張りました。

吊られていくケースを不安そうに見上げる参加者たち。

「一瞬の出来事ですからね、よく見ていてください」そして──

落ちることは分かっていても、衝撃と大きな音に思わずびっくり。中でYAOKIが無事走行したかどうかは……肉眼ではわかりません。
落下後ケース内の動画を皆で確認。再生してみると、数センチ前へしっかりと前に進んだYAOKIの姿が。やりました、実験成功です!

大迫力の実験を経て、改めてYAOKIを見てみると宇宙がもっと身近に感じられるようでした。この町の産業が宇宙開発につながっている、そんな壮大なロマンを子どもたちも感じられたのでしょうか。

そしてこのワークショップから約1年後、YAOKIはIntuitive Machines社の月着陸船「Nova-C」(通称「Athena」)に搭載され、2025年3月7日未明に月面軟着陸に成功。日本の民間企業としてはじめて月面に到達、そして稼働した月面探査車となりました!

ものづくりのまちとしての大田区を知る

内容たっぷりのワークショップを終えた子どもたちは、生き生きとした表情を浮かべているのが印象的でした。中には「見て見て!」と自身の作ったねじを自慢しに来る子も。今日知ったこと、見たこと、そして体験したことが、子どもたちの未来に少しでも繋がればこれほど嬉しいことはありません。

地道な技術開発が私たちの生活の安全を支え、さらには宇宙まで繋がっている。そこにスポットライトを当てたのが今回のワークショップでした。

「これからも桂川精螺製作所を、そしてプロジェクトYAOKIを応援してください」という挨拶に、あたたかい拍手が沸き起こりました。

展示スペースには桂川精螺製作所の廃材を活用したアイディア商品の展示も。製作所スタッフから仕組みを教えてもらう。
「どうなっているのだろう」と金属部品を注意深く観察する子も。桂川精螺製作所の精密な仕事を手に取って感じられる貴重な機会に。
きらぼし銀行、桂川精螺製作所、ダイモンの3社が集った一枚。手にはYAOKIをイメージしたオリジナルポーズを掲げて。

 

大田区には現在、約3,500もの工場があり「ものづくりのまち」として知られています。どの工場も今回の桂川精螺製作所のように金属を変形させたり、削ったり、磨いたりと様々な加工を専門に請け負っている企業がほとんどです。そしてその製造には、達人と呼ばれるようなプロたちが携わっています。

そのような大田区の産業を盛り上げるため、HICityには多目的スペース「PiO PARK」がオープンしています。こうした技術を集積し、そして発信し、新たな価値創造の場として地場産業を盛り上げていく役割を目指しています。

 INFORMATION

【HICity春スクール2024(桂川精螺製作所編)】

開催日:2024年3月27日
開催場所:桂川精螺製作所本社
主催:羽田みらい開発株式会社
コンテンツ提供:株式会社きらぼし銀行株式会社桂川精螺製作所株式会社ダイモン
協力:羽田旅客サービス株式会社
後援:大田区

月面探査車YAOKI(ヤオキ)

text : Miyu Oshiro photo : Nozomu Ishikawa 

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