【参加アーティスト・インタビュー】今や貴重な都市における現代アートの実験場「あわい – awai 2024 -」

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2024年11⽉1⽇(⾦)から3⽇(⽇)の3⽇間、HANEDA INNOVATION CITY(以下、HICity)で開催された、グランドオープン1周年記念イベント「あわい – awai 2024 –」。

本記事では、主に「ぶんか」のコンテンツとしてご参加いただいたアーティストやクリエイターに、出展作品のこと、HiCityの魅力や可能性について伺いました。

太陽になりきって新年の挨拶を!

AR三兄弟は、川田十夢(長男)、高木伸二(次男)、オガサワラユウ(三男)による開発ユニット。2009年ごろから、特にAR(拡張現実)に関するネタ(作品)を連続的に発表しています。HICityのイベントには以前から何度も参加しており、今回はARを活用した「年賀状をつくろう」というワークショップを開催しました。最先端の技術に、年賀状という日本ならではのクラシカルな文化と融合させ、つくる人にとっても受け取る人にとっても、新しい体験を提供します。

参加は事前予約制。大人気ですぐに定員が埋まった。

今回つくったオリジナルAR年賀状は、ハガキにある太陽のところに印刷されたQRコードをスマホで読み込むと、太陽が立体的に浮き上がり、事前にレコーディングした音声が再生されるというもの。AR三兄弟のこれまでの作品や仕事についての紹介がされる中、参加者は一人ひとりレコーディングブースに移動して、メッセージを録音していきます。

川田さん「太陽になりきって新年の挨拶をしてもらうという参加型のワークショップでした。結婚式で、これを活用するという前提で録音している人もいましたね。それぞれがいろいろな工夫をしていて面白かったです」

これまで関わった仕事や作品について解説。でも、参加者からいちばん質問が多かったのは、ABBAの3DデジタルABBAターによるロンドン公演「ABBA Voyage」について。「みんなABBA好きだなぁ。僕らの作品のことも質問して」と川田さん。

最後は一人ひとり、完成した年賀状のQRコードを読み込んで、スクリーン上で発表。「あけましておめでとうございます!」というシンプルなメッセージから、思わず会場を沸かせるユニークなメッセージまで、参加者の個性が出ていて、盛り上がりました。

単に映像や音声が送られて来るのとは違い、紙に印刷された太陽が浮き上がってメッセージを話し出すこの年賀状は、もらったほうもとても楽しいし、なんだか嬉しい。便利なだけではない、ARの使い道を教えてもらったように思いました。

QRコードを読み込むと太陽が浮き上がって喋り出す。
参加者は一人ひとり前に出てきて自分のAR年賀状作品を発表。

川田さん「HICityのイベントには毎年出させてもらっているので、アーティスト同士の横のつながりもできてきて。そういうふうに点と点がつながっていくのが、まちをつくる楽しみでもあると思います。この輪が国際的にも広がっていったらいいですよね。HICityでは、やっていることがちゃんとオープンにされた上で、今日みたいにお祭りとしてそれを楽しんでいる。イノベーションシティの名に負けない、本当にイノベーションな場所だなと思います」

左から、川田十夢さん(長男)、高木伸二さん(次男)、オガサワラユウさん(三男)

 


大田区にちなんだ粉末の挙動を観察する

HICityの玄関付近にあるガラス張りの会場。外からもよく見えていたため、いったいなんだろうと多くの人の目に止まった展示が「we+ OTA CURIO-CITY WONDER POWDER in OTA」です。コンテンポラリーデザインスタジオ「we+」が島津製作所とともに手がけた粉末の可能性を探究するリサーチプロジェクト「WONDER POWDER」のスピンオフ企画であり、大田区の魅力をさまざまな視点で捉えて表現するリサーチプロジェクト「OTA CURIO-CITY」の一環として開催されました。

広いスペースにさまざまな形状の什器が。自動で常時動いているものもあれば、自ら動かすことができる作品も。

林さん「WONDER POWDERは、島津製作所とwe+で2年ほど取り組んでいるリサーチプロジェクトです。いろいろな素材を粉末化し、水の中に入れて挙動を観察。動きがすばらしいものに関しては、島津製作所の機械で分析しています。感性的に、動きが美しくて魅力的だなと思うパウダーを、あえて論理的に、機械分析で調べているんですね」

安藤さん「小麦を潰してパンにするなど、粉末はもっともプリミティブな加工方法です。どちらかというと、機能性を持たせるために粉末化してきたのではないかと思いますが、そこにあえて美的な側面からアプローチしたら面白いのではないかと考えたところから、プロジェクトが始まりました」

今回の展示はスピンオフ企画ということで、使用するパウダーを『大田区にちなんだパウダー』に限定しました。

お話を伺ったwe+の林登志也さん(左)と安藤北斗さん(右)

例えば、大田区にたくさんある町工場をリサーチ。放電加工機で使われる真鍮ワイヤーや金属加工に使われるガラスビーズ、プラスチック加工の際に排出される樹脂のキリコなどがセレクトされています。このほか、大田市場からは発泡スチロールや食品の海苔、地域の伝統工芸品の素材からはカラス麦や竹。大田区にはキヤノンの本社があるということで、トナーももらいました。

リサーチと実験に立脚した手法で、新たな視点と価値をかたちにしてきたwe+ですが、ここまで場所性と素材を結びつけて企画に取り組んだのは初めてだったそう。

林さん「場所を限定すると、いつも見ている素材がまったく違うものになる。いつもと違った魅力を導き出すプロセスを通して、想像し得ない何かが見つかっていくというか。だから僕らも、やっている間とても楽しかったです」

今回は、全部で40種類ほどの素材をピックアップして実験。その中で、特に動きが魅力的だったものを14点展示しました。

アイライナーなどに使われるアルミパウダーは動きがゆったりしていて、美しい模様を描き出す。
什器は、本展示のフィールドリサーチのコーディネーターも務めた「ハタノ製作所」によって一つ一つ製作されたもの。
2色の樹脂プラスチックのキリコは、水平方向にクルクルと高速回転させるとなぜか四隅に渦ができる。
大田区の特産品である海苔は水分を多く含むため、ドロドロした形状となり、なかなか落下してこない。

林さん「素材を水の中に入れた時の挙動は、予想の範囲内のものと予想を越えるものがあります。粉末の細かさもいろいろなサイズで試したり、大きさの違う粉末を混ぜてみたりと、たくさん実験しました」

砂漠の風紋のようにゆったりと美しく模様を描くもの、什器を反転させるとドサっとあっというまに落下するもの、落下せず浮いてしまうもの、不思議な渦を描くものなど、どれも水に粉末を入れているだけにも関わらず、見せる動きがまったく違うことに驚きます。大人はもちろん、子どもたちもこの不思議な展示にすっかり魅了されていました。

11月2日には、ギャラリーツアーやトークセッションも開催。あいにくの天気で参加者は少なめだったものの、その分、じっくりと作品解説をしてもらえた上、濃密な対話が楽しめました。
今回、什器による展示には至らなかった素材の数々もボトルに入れて展示されていました。
素材はミルを使って粉砕したり、サイズによってはハサミで切ったりハンマーで叩いたりと、いちばんいい動きが出るように試行錯誤を繰り返すのだそう。

安藤さん「普段、僕らの展示を観に来る人は、デザイナーやアーティストがほとんどです。でもHICityのイベントは子どもがとても多いし、おじいちゃんおばあちゃんもたくさんいて、老若男女、いろいろな方に観てもらえるのが面白いところです。あと、今回は、地元の大田区の人たちに大田区にちなんだ展示を見てもらう機会がつくれたのがよかったなと思っています」

ただの水と粉末を動かすだけで、これほどさまざまな動きが楽しめる。思わず見とれたり、驚いたりと、いつまでも飽きることがありませんでした。目の前の風景や素材にどう着目するかによって、作品は生み出されていきます。まさに、その瞬間に立ち会っているように感じました。


都市で行なう実験音楽の可能性

パノラマティクスの齋藤精一さんと黒鳥社の若林恵さんが企画する実験音楽のイベント「SOUND & CITY」。これまでに5回開催され、HICityではそのうちの4回が開催されました。第5弾となった今回は「Playing with Ghosts: Kei Matsumaru」と題し、鬼才のサックスプレイヤー・松丸契氏を迎え、HICity内の複数の音響空間を巡りました。

メイン会場は予約制。椅子は移動自由で、好きな場所に好きなように佇んで演奏を聴くことができる。音に合わせてライトが点滅するなど、演奏者の姿はないのにそこに「在る」ことを体感できる。
メイン会場とは別の場所にあった演奏会場。こちらは、誰でも自由に観ることができた。

齋藤さん「今回試みた『Playing with Ghosts』は、自分で演奏した音が、フィードバックとして再び自分に返ってくるという実験的なインスタレーションです。SOUND & CITYがずっと追求しているのは、アカデミックかつ哲学的に、音でどういうことができるかということで、今回も、今のテクノロジーを使い、HICityという場だからこそ何ができるかを考えました」

パノラマティクスの齋藤精一さん。
サックスプレイヤーの松丸契さん。

例えば第一部では、メイン会場から離れた演奏会場で松丸さんが40分間の演奏を行ない、メイン会場でリアルタイムに再現。演奏している人は目の前にいないのに、音は確かにその場に存在しているという感覚を味わいます。

齋藤さん「パフォーマンスもインプロビゼーションの演奏も、音量も音質も、おそらく普段聴いている音楽とはまったく違います。僕が思っているのは、今まで体験してこなかったからこそ開かなかった思考の扉が開けばいいなということ。演奏の前後にはトークも行ないましたが、例えば戦争と音にどういう関係性があって、それがどう社会に影響を及ぼし、我々はそれをどう受け止めるべきなのかという、深い議論を展開し、一緒に考えたいと思っています。だからなのか、来た人も観客として演奏を観るというよりは、最後に自分も巻き込まれて、自分の能力を発揮し、一緒にイベントをつくり上げていくという感覚なんですね。だから何度も参加してくれる方も多いです。文化をつくっていくという意味でも、すごくいい反応だと思います」

第三部ではメイン会場に戻って演奏を。第一部の演奏を逆再生したものを流しながら、その場で演奏を重ねる。

齋藤さんは、実験音楽に取り組む人も研究者も大勢いるにも関わらず、それを表現する場所が年々少なくなっていると話します。ところがHICityには、東京という大都市にありながら、こうした実験的な試みを許容する自由さがあると言います。

齋藤さん「できるところがどんどんなくなっているので、こうした場所があることを、非常に心強いと思っています。減っている理由は、単純に集客がなかなかできないからなんですが、イノベーションって最初から成功するわけがないんですね。つくり手が信じているものを周囲が許容し、それを続けていくことが結果としてイノベーションにつながっていく。SOUND & CITYも、続けていくことでのちのち大きな力になっていくと信じています。文化は、つくろうと思ってつくれるものではない。そのためには、続けていくことと許容度があることが大切なんです」

最後は、関係者が集まってトークセッション。

HICityは、いい意味で「無味無臭」なのだと齋藤さんは続ける。

齋藤さん「ここって『何でもあり』という感じがしませんか? すごく自由ですよね。もちろんHICityにもルールはあるんです。でもHICityは、ルールよりも『規範』を大切にしている感じがします。規範というのは、例えばSOUND & CITYを何回かやっているうちに、ここは実験音楽を表現していい場所なんだというふうにできていくものです。規範は、ある程度の蓄積があってようやくできて、それをリードするコミュニティマネージャーみたいな人が出てきて、最終的に実装されていきます。だからこういう取り組みを、ぜひこのまま続けていってもらいたいと思います」

「イノベーション」を名前に宿す場所だからこそ、実験的な試みを受け入れ、許容する。無味無臭から始まったまっさらな場所に、少しずつHICityならではの「規範」がつくられていくことになるのでしょう。SOUND & CITYのように、簡単には説明できない実験企画が、当たり前にイベントのコンテンツになっているHICityのユニークさをあらためて感じました。


フラリと来た家族連れが体験する現代アート

「バイナリ化する幽玄」は、現代美術家の窪田望さんによる、参加型アート作品。鈴虫や松虫の音色を楽しむ平安時代から続く貴族の遊びであった「むしきゝ」の風習を、現代的な解釈で再現し、来場者のスマートフォンのライトを特殊なフィルムを通して壁に投影することで、複雑で美しい色彩の「現代灯火」を生み出します。

窪田さん「今回は、羽田や大田区に関係のあるサイトスペシフィックな作品にしたいと思い、リサーチしていたんですね。その中で羽田空港が開港した1931年8月25日という日付が出てきました。その当時、民間用飛行機はすごく高額で、簡単に乗れるものではありませんでした。そのため、最初の乗客は人間ではなく、鈴虫と松虫だったそうなんです」

なんと6000匹の鈴虫と松虫が、日本の風情を伝える最初の乗客として飛行機へ。ここから、羽田空港の歴史は始まりました。

窪田さん「そこに着想を得て、6000匹の鈴虫の声を聞いてみたいと思いました。京都に鈴虫寺というお寺があって、3000匹の鈴虫が大切に飼われています。特別に許可をいただき、その声を右と左に分けて集音し、合体させて、のべ6000匹の鈴虫の声に仕上げて、インスタレーション作品にしていきました」

現代美術家の窪田望さん。

会場には、崩壊しつつある障子を吊るし、ギリギリの朽ちの美を表現。その中に、6000匹の鈴虫の音が鳴り響きます(エリア1)。入口で渡されるクリアバッグにスマホを入れて周囲を照らすことで、自身も参加しながら、風情と幻想が入り混じった空間を楽しむことができます。

これだけでも十分面白いのですが、実はこの作品は3段階に分かれており、エリア2とエリア3が用意されていました。いったん会場を出て、端に置かれたパソコンブース(エリア2)に座り、ヘッドフォンをします。zoomに接続された画面にはエリア1の様子が映っており、話し声なども聞こえてきました。「何か違和感はありませんか?」と窪田さん。

窪田さん「中ではあれだけ鳴り響いていた鈴虫の声が聞こえなかったのではないかと思います。zoomにはAIが入っていて、ノイズキャンセリング機能で、ノイズかノイズじゃないかを分類するんですね。鈴虫の音は、2024年11月の今においてはノイズだと認定され、かき消されてしまう。でもその音は、平安時代から日本では「むしきゝ」として大切にされてきた文化であり、1931年には羽田から初めて飛行機に乗ったという、大田区にとってもとても大切なものなんです。でもそれがノイズとして排斥されて、聞こえない。10年後に技術が発達して、そのバグが解消されたとしても、ほかのマイノリティの小さな声が、またあらためて排斥されるかもしれない。そこに、AIの本質的な問題が隠されているなと思いました」

さらにエリア2に置かれているQRコードを読み込むと、Webサイト(エリア3)に飛び、今回の作品の意図を知ることができます。現代アートは、作家が意図して作品をつくっても、必ずしもそう受け取られるとは限らないものです。しかし今回は、HICityという場所の特性も鑑み、意図的にネタばらし自体を作品に組み込んだのだそう。

窪田さん「普段の展示には、美術やアートが好きな人が来るのですが、HICityの展示では、近くに住む家族連れがたまたま来て、たまたま作品に接するというケースがすごく多いんです。なので、子どもが楽しめる作品かどうかがすごく大事だなと思い、3段階の構成にして、深掘りすればちゃんと意図が伝わる設計にしてみるチャレンジをしました」

スマホのライトを点灯させ、クリアバッグを透して光を当てると幻想的な灯りになる。
障子紙は同じサイズのものを同じルールで破いているが、吊り下げ方や光の当て方によって、まったく違う様相となる。
エリア1の外にあるエリア2。左端にあるQRコードがエリア3への入口。

すでにHICityでは3回目の作品展示だったという窪田さん。HICityは、不思議な縁を感じている場所でもあるそうです。

窪田さん「僕は散歩が好きで、品川から羽田空港まで20キロくらいをひたすら歩くっていうことをよくやっていて。HICityが工事中だったときも通りかかったんです。そのときに、こことは縁がありそうな気がするって勝手に思ってて。そうしたら、本当に声をかけていただいて、作品展示をやることになったんです。不思議ですよね。イノベーションという言葉が使われているとおり、自動運転を実施していたり、足湯があったり、ときには足湯DJが開催されていたりと、とにかく今まで見たことないものが寛容にある印象で、そこに居心地の良さを感じています」

普段とは違う環境での作品展示は、難しくもある反面、新しい表現を生み出すきっかけにもなっています。

窪田さん「多くの展示は、事前に企画書をつくって、承認を受けて、そのとおりにやらないといけないんですね。でもHICityは、作品を自由につくらせてくれる文化があります。ここではつくりながら、臨機応変に変えることもできる。こういった柔軟さはイノベーションにはすごく大切で、そういう場所で展示ができているというのは、本当にラッキーですね」

障子が宙に浮いている幻想的な空間。

ご近所の家族連れからビジネスマンまで、多種多様な人で賑わった「あわい – awai 2024 -」。イベント内容も、物産スペースからワークショップ、アート作品や実験的展示の数々、産業関係のイベントや展示、DJナイトにご当地ほりにし甲子園まで、あまりにもさまざまで、参加者も知らず知らずのうちに、新しい出会いや発見があったのではないでしょうか。確かなことは、この大都市でこれだけ混沌としたまま、自由にアートを追求できる環境はそうそうないということ。HICityの向かう未来には、アートや文化が確かに息づいていることを実感し、ますますこの先が楽しみになった3日間でした。

INFORMATION

【あわい - awai 2024 -】
開催日:2024年11月1日(金)ー3日(日)
開催場所:HANEDA INNOVATION CITY
主催:羽田みらい開発株式会社
企画:鹿島建設株式会社
後援:大田区

あわい - awai 2024 –

AR三兄弟 年賀状をつくろう

we+ | WONDER POWDER

SOUND & CITY Presents Playing with Ghosts: Kei Matsumaru

窪田望 | ついに完成!!バイナリ化する幽玄(voicy)

text : Yuki Hirakawa photo : Takahisa Yamashita , Naoto Nobuyoshi, Nozomu Ishikawa

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