
「Tokyo Creative Salon 2025」地域とつながるファッション・体験型イベント「COLORFUL SKY」常設展示レポート
3月13日から3月23日まで開催されたTokyo Creative Salon(以下、TCS)。「COLORFUL SKY ALL DAYコンテンツ」と題した会期中、HANEDA INNOVATION CITY(以下、HICity)では「羽田小学校Tシャツインスタレーション」「PRISM_geographic」「NOVA」の3つのインスタレーションを常設展示。人の五感を刺激し、クリエイティビティの広がりや可能性を感じさせる内容となっていました。

リコーグラフィックコミュニケーションズと羽田小学校のコラボレーション
HICity2階のオープンスペース「イノベーションコリドー」を彩るTシャツの数々。青空に映えるカラフルでさまざまな絵柄のTシャツが風に揺られていました。
このTシャツのプリントは羽田空港のある東京都大田区の企業、株式会社リコーグラフィックコミュニケーションズが手がけたもの。DTF(ダイレクト・トゥ・フィルム)プリンターRICOH Pro D1600(国内未発売)を使用したデジタルプリントで、大田区羽田小学校の子どもたちが描いた「十人十色の空」をTシャツにプリントしたものです。このDTFは高画質なだけでなく、生産性が高く、環境にも配慮したエコフレンドリーな製品でもあります。


「羽田小学校は、羽田空港から約900mの場所にあり、2024年のTCSでは全校生徒が折り紙で飛行機を折って、お神輿とともに、第2ターミナル国際線エリアにて飾るというインスタレーションを行いました。今年は何をしようかと考えたとき、この大田区にあるHICityに、もっと地域の人たちに来て欲しいと思い、大田区の企業と一緒に何かやりたいなと考えました。リコーさんは大田区の企業で、長いあいだ山本寛斎のショーのサポートをしてくださっていて、そのご縁で今回のDTFによるTシャツのインスタレーションが実現しました。イラストレーターの竹井千佳さん、ファッションディレクターの菅井葉月さんと共に、羽田小学校で「十人十色の空」を描くというテーマを掲げ、ワークショップを全部で8コマも行ったんですよ。」
話してくださったのは、ファッションデザイナー・山本寛斎氏の事務所の代表取締役、高谷健太さん。



今回のTCSではリコーのブース出展もありました。DTFプリンターで作成したトートバックをHICityにてお客さまにプレゼント! 4種類の絵柄から好きなものをチョイスし、熱転写ですぐにプリント。最終仕上げの工程である布からフィルムを剥がす作業は参加者が自ら行い、バッグを完成させる、楽しい企画になっていました。









羽田と世界を結ぶ航路の軌跡を光の点と線で描き出す
HICityのZONE Bで展示された「PRISM_geographic」は、株式会社博展の所属アーティスト、小野寺 唯さん(クリエイティブディレクター)、高橋 匠さん(空間デザイナー)、熊崎 耕平さん(プロダクトマネジメント)によるインスタレーションです。
地球上を行き交う飛行機の軌跡を、光の点と線によってビジュアライズするといった、羽田空港と世界を結ぶ航路が有機的に浮かび上がる体験型アートインスタレーションで、来場いただいた方が管制塔のようにホロライトの角度を動かすこともでき、新たな光の航路を生み出すことも体験することができました。
過去に行われた『Prism』では、国際的に権威のある独デザイン賞「iFデザインアワード2021」のInterior Architecture部門で、最高位のゴールドを受賞しています。

「これまで、『Prism at SENSE ISLAND -感覚の島- 暗闇の美術島』と題して、横須賀・猿島の海岸での展示を行ったり、眠らない街、渋谷の夜景を色鮮やかな光の連鎖によって表現するなど、Prismをテーマとした展示を行ってきましたが、HICityの展示では、その文脈を変え、羽田空港の航路をイメージした作品にするために、光源をゆっくり動かす1灯と、スピード感のある1灯、展示を見る人が手動で光源を動かせる1灯を使い、行き交う飛行機の軌跡や、離着陸の飛行機の動きを表現しました。図面で羽田空港の位置を決め、そこからは光の筋上にプリズムを置いていきながら、全体のイメージを作っていきました。平面だけでなく、細いテグスを使ってプリズムを吊ることで光を空間全体で見ることができます」(株式会社博展 高橋 匠さん)






図形楽譜と音で五感を刺激する「NOVA」
もうひとつの常設展示は、HICity ZONE KのGALLERYにて見ることができました。株式会社博展のクリエイターと鹿島建設株式会社が共同制作した作品は話題の立体音響スピーカー「OPSODIS 1」を駆使し、音楽と絵画がひとつになった空間アートです。
「鹿島建設は、これまでサントリーホールをはじめ、HICityにあるZepp HANEDAなど、多数の建築音響分野に携わり、座席の位置による音の差異のシミュレーションなど、音響技術の研究に長年取り組んできました。この技術を活かして開発されたのが、「OPSODIS 1」です。
立体音響技術「OPSODIS®(オプソーディス)」は、音響技術分野で著名な英国サウサンプトン大学・音響振動研究所と音楽ホールなどの建築音響分野で豊富な実績を持つ鹿島技術研究所が共同開発した立体音響再生技術で、ヘッドホンを使わずとも大きな没入感が得られます。このスピーカー「OPSODIS 1」による臨場感は、このOPSODIS技術によって成り立っているんです。
我々(鹿島)が面白いもの(OPSODIS 1)を作っているらしい! と、どこかで耳にした方々から、ぜひ聴いてみたいというお声をたくさんいただき、製品化できたタイミングが重なったこともあり、今回のTCSの常設展示として『NOVA』を公開しました。
このスピーカー製品の特徴をどう表現するか、一般的な音源を流すだけではないTCSだからこそできる展示の仕方がないか、、HICityらしさとはどんなことかを考え、株式会社博展の方々に空間と立体音響の音楽を作っていただき、図形楽譜と呼ばれる視覚的な情報を加え、ひとつのアートとしました。」(羽田みらい開発株式会社/鹿島建設株式会社 谷口直輝さん)

図形楽譜とは、従来の五線譜を使わずに、図形や色、線、記号などを用いて音楽を視覚的に表現する楽譜のことで、特に20世紀の現代音楽の作曲家たちが、既存の音楽表記法では表現しきれない音楽の要素を記録するために発展させたもので、HICityのキービジュアルのような図形楽譜も存在し、アート性が高いことも大きな魅力とのこと。
今回の常設展示『NOVA』は、「羽田SKY」からインスピレーションを受け、空港は空に近く世界と繋がるという面から、新星=NOVAをテーマに、空港夜景、飛翔、飛び立った後に生まれるもの(未来)の3つの絵画と音楽で構成し、作品の企画と音楽は坂口 倫崇さん(博展/音楽家)、空間デザインに原 良輔さん(博展)、そして絵画は金田 紘美さん(鹿島建設株式会社/画家)が担当。

音楽が鳴る空間で絵画を見ていると、まるで絵画が動いているように感じられ、浮遊感と没入感のあるこれまでに体験したことのない感覚を得ることができます。画家として今回の作品に携わった金田紘美さんにもお話を伺うことができました。
「制作期間が短かかったため、音楽を担当した坂口倫崇さんと最終イメージを擦り合わせながらスケッチ段階で作り込み、さまざまなマテリアルを試しながら画材を選定していきました。“飛翔”をテーマとした中央の絵は一番シンプルですが、色を重ねるたびにブレてしまった線を何度も描き直し、設営前日の夜まで描き続けた、苦戦した作品となりました。」(鹿島建設株式会社/画家 金田 紘美さん)
最後に「NOVA」を創案し、ディレクションと音楽を作曲した坂口倫崇さんから総括をいただきました。
「音楽と絵画は全く別の表現という捉え方が一般的ですが、音から絵を想起することもありますし、その逆もあります。音楽と絵画の関係性において主従関係を限りなく解消し、等価として捉えることで浮かび上がるクリエイションに挑戦したいと考えました。
今回は3つの絵画(図形楽譜)に対して、3つの音楽が立体音響で奏でられていますが、さらに離れて聴くことで、1つの音楽になるようにも作曲しています。これは美術館で絵画の連作を離れた視点で鑑賞できるように、音楽も同様の鑑賞ができるか試みたものです。立体音響スピーカーを複数台使うことで、さらにもう1つの空間を生み出す実験でもありました。このようにまだ多くの人がやっていない試みをすること自体が、イノベーションに向かう一歩だと考えています。(「NOVA」はIN“NOVA”TIONから発想しました)
今回創作した音楽と絵画をもとに、興味を持たれた方が自分なりに音楽を奏でたり、絵を描いたり、二次的な創作が生まれると、この試みはさらに面白くなっていきそうです。」(株式会社博展/音楽家 坂口 倫崇さん)
常設展示「NOVA」終了後、HICityでの「OPSODIS 1」展示は継続し、実際に「OPSODIS 1」のサウンドを体験することができます。デモ音源を聞くことの他に、スマートフォンなどをBluetoothで接続して聴きたい音を視聴することも可能。場所は変わらずHICityのZONE K 2F GALLARY、平日9:00~19:00であればいつでも誰でも自由にご体験いただくことができます。ぜひ足を運んでください。

クラウドファンディングで「OPSODIS 1」の販売を開始
2024年6月にスタートしたクラウドファンディングは、6億3千万円(3/25現在)の支援を集め、さまざまなメディアでも紹介。「3Dサラウンド」とひと口で言うにはあまりに未知の体験ができる「OPSODIS 1」。現在ファーストロット74,800円の支援が継続しており、1回目のデリバリーは2025年12月を予定。音についての研究を続けてきた鹿島建設が本気で挑む、新たな音の世界をぜひ応援してみませんか。
明るい未来を照らす地域の子どもたちと繋がるインスタレーション、誰もが知っている光をプリズムと組み合わせ羽田の空を表現した「PRISM_geographic」。五感を刺激し未知の体験を得られる「NOVA」。
3つの常設展示は、クリエイティビティと共にHICityらしさも伝わるものでした。たくさんの来場者の方々が、この新たな体験を持ち帰り、これからのクリエイティブへの糧にしてくれるのではないでしょうか。
INFORMATION
【COLORFUL SKY/Tokyo Creative Salon 2025】
開催日:2025年3月13日(木)ー3月23日(日)
開催場所:HANEDA INNOVATION CITY、羽田空港第1ターミナル2階・中央マーケットプレイス
※Tokyo Creative Salon 2025は東京全域(丸の内、日本橋、銀座、有楽町、赤坂、六本木、原宿、新宿、羽田)で開催。
主催:東京クリエイティブサロン羽田エリア実行委員会
企画:日本空港ビルデング株式会社
協賛:株式会社読売新聞東京本社、株式会社きらぼし銀行、株式会社リコー、株式会社伊藤園
協力:川崎重工株式会社、鹿島建設株式会社、羽田みらい開発株式会社
Tokyo Creative Salon 2025
https://tokyo-creativesalon.com
text : Rika Kasai photo : Nozomu Ishikawa